トップへ戻る

                    平成21年度 日本理化学協会賞 表彰

 

(物理) 神奈川県立厚木東高等学校  塚本 栄世 先生  (発表時 神奈川県立小田原高等学校)

【研究主題】 質量の異なる弾性体の連続衝突に関する研究

[選定理由]    質量の異なる弾性体を重ねた装置は、「すっとびボール」、「多段式垂直衝突球」などとして教材化されている。これを自由落下させ、床(板)にぶつけると弾性体の連続衝突によって、最上部の弾性体が落とした高さよりはるかに高くはね上がり、生徒の興味関心を高めることができる。個々の弾性体に生じている歪みの伝わり方や弾性体の間の接触時間を歪みゲージ(ストレインゲージ)や導電性ペースト(ドータイト)を用いて調べた。その結果、@複数の弾性体の間で歪みが順々に伝わっていくことがあらためて示され、連続して衝突している過程では3体の弾性体の間で衝突しあっている時間があることが分かった。A弾性体が小さいほど応力の加わる時間が短くなることが分かった。B複数の弾性体を乗せて落とすと弾性体一つを落とした場合に比べ、床(板)と接触している時間が長くなることが示された。 この実験によって連続した衝突の歪みの伝わり方や連続衝突している弾性体間の接触の様子が明らかにされ、連続衝突で起きている過程が理解され、生徒の知りたいことに答えることができるものと考えられる。質量の異なる弾性体を重ねた装置は既に発表され、よく知られているが、その衝突の過程が実証的によくとらえられており、日本理化学協会賞としてふさわしい研究である。 ヘリウムによるドナルドダックボイス現象は、物理に興味を持っていない生徒にも良く知られており、不思議な現象であろう。また、授業での演示も容易である。この現象を生徒実験として探究する過程で,気体や金属棒が示す固有振動数や定常波について学んで行くという学習の流れは、物理が好きでない生徒にとっても自然であり、何より学習のモティベーションが高まる。本実践では、@この現象を解明して行く過程を生徒実験による探究活動とした。A固有振動数を測定する等をあえてせず、風船をたたいたときの音を聞いて、その高さの違いをとらえさせている。B難しい物理用語や計算を巧妙に避け、しかし、生徒は一定の納得には至る。Cその授業の背景には、自ら実験をして得たデータに基づく定量的な事実と、理論的な理解がある。といった点が評価できる。具体的な不思議さを実験を通して探究的に解明し、その背景についても実験データに基づく深い理解が得られる等、本実践は物理授業のあるべき姿の一つとも言える。  この現象に関して先行する理論や実験、授業実践、テレビ番組等は少なからずあるが、このような授業の姿勢をさらに発展させることも期待して、日本理化学協会賞にふさわしいと考える。

    研究論文 物理(PDF/463KB)

  

 

(化学)  愛媛県立松山東高等学校  越智 亮平 先生

【研究主題】 難溶性塩の溶解について              

             ―クロム酸銀の溶解度積を求める実験方法の研究とその教材化―

[選定理由]  生徒の苦手とする化学平衡の中でも特に溶解平衡を取り上げ、クロム酸銀の溶解度積 を用いて、化学Uの指導要領にある「基本的な概念や原理・法則の理解を深める」ための実験を開発し、生徒の興味・関心を高め、自ら探求しようとする態度を育成するために有効である。 化学平衡の分野においては、短時間で手軽にできる実験例が少なく、理論的な授業になりがちであり、そのため生徒の理解や興味・関心を高める工夫が少なかった。本研究は、その問題を解決する手法として優れた内容である。特に、@1時間で完結できること。A通常の実験室の器具にて実験できること。B事前の試薬等の調整法がわかるので準備に手間がかからないこと。Cクロム酸銀などの沈殿が試薬により変化することが色の変化によって確認できること。D簡便な実験であるにもかかわらず精度が高いことなどが興味深い。多くの高等学校で実践できる内容であり、授業以外にも、課題研究や化学関係の部活動にて取り組み、内容の一層の発展を期待できる研究である。  化学平衡の理解を深めるための実験の開発に取り組み、多くの高等学校で実践できる実験としてまとめたことは、高校化学にとって大変意義深く、日本理化学協会賞にふさわしい研究である。 日常的な卵白を題材として、その主成分のアルブミンの結晶化、簡易的な電気泳動、さらには、卵白タンパク質の電気泳動による分子量測定を行っている。卵のように日常生活に関連の深いものを教材化することは、化学Tの指導要領に「日常生活との関連を深め」とあるように、生徒の興味・関心を深め、自ら探求しようという意欲を喚起するために有効である。  タンパク質の結晶化や、電気泳動の定量化実験とその応用としての分子量測定などは、一般の化学の教材にはない興味深いものである。@タンパク質の結晶化については、通常の器具と薬品を用い、簡単な操作で行えるよう工夫されている。A卵白タンパク質の簡易電気泳動実験も、比較的簡単な装置を用い、ニンヒドリン反応による色の変化で移動がわかるよう工夫されている。B卵白のゲル電気泳動実験は、大まかなタンパク質の分子量を測定できることが興味深い。この実験は、操作に時間と手間がかかるが、課題研究や化学部の活動として取り組ませることも考えられる。  日常生活に関わりの深いものを素材として、今までにあまり高校の現場でとりあげられなかった、しかし高校化学にとって意義深い教材に工夫したことは、日本理化学協会賞にふさわしい研究であると考える。

    研究論文 化学(PDF/418KB)